インフィラータで有名な美しき村、スペッロ

インフィラータで有名な美しき村、スペッロ

11月14日のメルマガから3回に渡ってお届けしているウンブリア州・ペルージャから簡単に行ける美しい村、最終回はスペッロです。ペルージャからは直通電車で30分強というアクセスの良さ、そして1つ目のパッシニャーノ・スル・トラジメーノと同じく鉄道駅から歩いて行けるのが嬉しいところ。しかも世界遺産の聖フランチェスコの町アッシジもペルージャ側にたった1駅10分の近さ。ペルージャよりももっとこじんまりした町をお好みの方は、ここをベースにウンブリアを周るのもおススメです。

しかし、人口8000人の小さな村が世界中からの観光客でにぎわう日があります。それは毎年6月頭、厳密に言うと復活祭から9週間後の日曜・聖体祭に行われる「インフィオラータ」という宗教行事のため。インフィオラータはイタリア各地で行われているのでその名前を知っている方、そしてインフィオラータからスペッロの村をご存じの方も少なくないのではないでしょうか?

インフィラータで有名な美しき村、スペッロ

「インフィオラータ」の意味は、花で飾ること。聖体祭に際し、路上に花びらで絵を描いてお祝いするお祭りで、その起源はローマ、17世紀までさかのぼります。スペッロのインフィオラータの開始は1930年頃、ある女性がエニシダとフェンネルで簡単は絵を描いたのがきっかけとなり、次第に村をあげての行事に発展しました。インフィオラータの時にスペッロを訪れることができれば最高ですが、そうでなくても大丈夫。というのも、村の中心であるレプッブリカ広場にはインフィオラータ博物館があり、その様子をパネルで見たり、材料である乾燥した花びらなどを見ることができるのです。

過去の作品の素晴らしさだけなく、村人がこの祭りにかける時間と労力にはただただ驚くばかりです。いろんなバリエーションの花びらを揃えるため、周辺の野山で1年を通してリサーチ。収穫した花は色や香りを保つように大事に乾燥、保管されます。春の本格的な収穫では体力のある若者が、仕分け作業は年配女性など、村人がそれぞれに合った形で参加します。その参加者は約2000人、花は65種類、数は1500万個!作品づくりは前日土曜の午後からスタートし、照明も設置されたテントの下でひたすら下絵にそって花びらをおいていく作業を続けます。作品が完成する早朝は歓喜の住民といち早く作品を見ようと集まる観光客でにぎわい、インフィオラータがスタート。しかしこの作品はミサ終了後の宗教行列に踏まれてしまうので、たった3時間だけの短い命。そこにかける情熱とエネルギーに頭が下がる思いです。

インフィラータで有名な美しき村、スペッロ

スペッロと花の結びつきはインフィオラータだけではありません。2005年からは「花で飾る窓・バルコニー・路地」のコンテストが行われ、住民はそれまで以上に自宅や自宅のある路地を綺麗に花で飾ります。受賞した場所には写真のようにマヨリカ焼の受賞プレートが贈呈され、今ではすっかり観光スポットに。カメラ片手に美しい路地や手入れの行き届いた家屋を見るだけで、あっという間に時間が過ぎてしまいます。

それ以外にも、スペッロは古代ローマから残る数々の歴史的建築物も大きな見どころです。立派な塔に挟まれたローマ時代のヴェーネレ門や城塞、インフィオラータ博物館がある中世のコムナーレ宮。

インフィラータで有名な美しき村、スペッロ

そして何よりも、美術館さながらの有名芸術家の作品が残るサンタ・マリア・マッジョーレ教会。ルネサンス期を代表するペルージャの画家でラファエロの師匠としても知られるペルジーノの2作品に加え、その弟子であるピントゥリッキオのフレスコ画で埋め尽くされたパオリーニ礼拝堂は必見です。礼拝堂の床には、近郊の陶器の村・デルータでつくられたマヨリカ焼のタイルが敷き詰められ、誰もがその場に立ち尽くしてしまうほどの圧倒的な空間を作り出しています。

知れば知るほど、個性豊かで魅力的な村があちらこちらに見つかってしまうイタリア。村好きの私もまだまだ未踏の村が多すぎて、本当に困ってしまいます。

インフィラータで有名な美しき村、スペッロ


文・写真/中山久美子
日伊通訳・コーディネイター。2001年にフィレンツェ留学、結婚ののち、2005年よりトスカーナ北部の田舎に在住。トスカーナの小さな村、郷土料理やお祭り、料理教室などのプログラムを紹介するサイト「トスカーナ自由自在」を運営。イタリアの美しい村30村を紹介した「イタリアの美しい村を歩く」を東海教育研究所より出版。