トスカーナのカーニバル菓子・チェンチ

揚げもの天国!カーニバルの伝統菓子

(カーバー写真)トスカーナのカーニバル菓子・チェンチ
カーニバルは、カトリック教国において、復活祭の46日前の水曜日(灰の水曜日)から復活祭の前日までの四旬節の直前に行われるお祭りです。かつて四旬節の期間中は肉食を控えて慎ましく過ごす規則があったので、その直前に肉食を思い切り楽しみ羽目を外すようになったのが、カーニバル(=Carne肉 Levare 取り除く)の起源とされています。世界的にはブラジル・リオのパレードや、仮面をつけてコスプレを楽しむヴェネツィアのカーニバルが、そしてトスカーナのヴィアレッジョは風刺のきいた大きな山車のパレードも有名です。

市民レベルでは、広場などで子どもを中心にコスプレをして、紙吹雪を飛ばしたりやカラースプレーをかけあったり、カーニバル伝統菓子を食べて楽しみます。そのお菓子はスーパーやバールで売られていますが、家で作るために材料を集めた特設コーナーなども設置されるほど、なくてはならないものになっています。

スーパーのカーニバル菓子売り場スーパーのカーニバル菓子売り場

さてそんなカーニバル菓子、イタリア各地にたくさんの種類がありますが、その中で名前は違ってもほぼ同じなのが、小麦粉と卵、水などの生地を揚げて砂糖をまぶしたもの。少しの違いはあってもほぼ同じこのお菓子は、イタリア各地で呼び名が違います。そのうちの一つ「フラッぺ」は、古代ローマ時代の豚のラードで揚げてハチミツをかけたfrictilia が起源。慎ましい四旬節に入る前にたらふく食べる、お祭り騒ぎをするカーニバルのお菓子は、おのずと揚げ物の甘いものになった、という訳です。もう1つの理由は、大勢の人に配る必要があったため、加熱時間短縮のために揚げ物が一番手っ取り早かった、という説もあります。
同じものでも、このお菓子のトスカーナでの呼び名は「チェンチ」。「ハギレ、雑巾」を意味するこの名前は、形状からこう呼ばれるようになったようです。北部中心として広い範囲で使われている名前は「キャッケレ」。「おしゃべり」を意味することの呼び名は、サヴォイア王朝のマルゲリータ女王が友人とのおしゃべりのお供用に何かお菓子を作るように希望し、できたのがこのお菓子だと言われているためです。

我が家のチェンチは夫の祖母からレシピを受け継ぎました

先日、ヴェネト州に出張があった際に少しだけヴェネツィアで時間を潰したのですが、その時に地元のパン屋さんで見かけたのが、もう1つのカーニバル菓子「フリッテッレ」です。これは前述のお菓子とは違い、名前は同じでもトスカーナとは異なるものでした。ヴェネツィアの伝統的なフリッテッレは干しブドウ入りの生地を揚げたもので、このお店のものはテニスボールくらいの大きさ。中にシャンティクリームやカスタードクリーム、リコッタクリームなどが入ったバリエーションも並んでいました。いっぽうトスカーナのフリッテッレは、ミルクで煮たお米に卵と干しブドウを混ぜ、スプーンにすくって揚げて砂糖をまぶしたもの。一口大の大きさですが、数個食べるとお腹にたまる、でもやめられないカーニバル時期だけのお楽しみです。

フリッテッレヴェネツィアのお店で見た、干しブドウとクリーム入りのフリッテッレ

カーニバルは復活祭の日によって変動しますが、毎年おおむね2月ごろ。どの町に行っても必ずパン屋さんやバール、スーパーにご当地カーニバル菓子が売っていますので、ぜひ食べ比べをしてみて下さいね。


日伊通訳・コーディネイター。2001年にフィレンツェ留学、結婚ののち、2005年よりトスカーナ北部の田舎に在住。トスカーナの小さな村、郷土料理やお祭り、料理教室などのプログラムを紹介するサイト「トスカーナ自由自在」を運営。著書に「イタリアの美しい村を歩く」、「イタリア流。世界一、人生を楽しそうに生きている人たちの流儀」。