フィレンツェに残る「ワインの穴」

フィレンツェに残る「ワインの穴」

フィレンツェを歩いていると、建物の壁に小さな穴があるのに気づくことがあります。縦長で上がアーチ形になったこの穴は、ドアがついていることもあれば、ふさがれて枠だけ残っているもの、枠さえもなく壁にその印だけ残っているものなど、状態はさまざまです。これらは、かつて4世紀に渡り実際に使われていた「BUCHETTA DEL VINO(ワインの穴)」。そんな歴史あるワインの穴は多くの場合は記録に残っていないのですが、ワインの穴・文化協会が調査をしてリスト・マップを作成し、サイトやイベントなどを通じてプロモーションを行っています。

ワインの穴の起源は明確ではありませんが、おそらくルネサンス頃から使用されていました。 当時のフィレンツェの法律で、ワイン生産者が少量を直接消費者に販売する場合は税金が免除されたため、そのやりとりをするための「ワインの穴」が誕生しました。ワインの穴のほとんどは23×36㎝、販売上限であったフィアスコがちょうど1本通れる大きさです。フィアスコとは、ボトルを守るために藁で下部が包まれたぷくっと膨らんだワインの瓶。トスカーナ、特にキアンティワインでよく使われるボトルです。今では小さいサイズもありますが、昔ながらのサイズは1.5リットルの大瓶です。

フィレンツェに残る「ワインの穴」

ワインを買いたい人は、ワインの穴のドアをノックしお金を置きます。すると中からドアが開き、ワインを入れたフィアスコが1本が差し出されるという仕組み。フィレンツェ以外黒死病が流行った1630年頃、接触が少ないことで重宝されたことから、近年のコロナ禍でもかつてのワインの穴を復活させた店があります。そして昔の習慣を継承し、観光客にも楽しんでもらえることから、現在はフィレンツェ旧市街9か所で「ワインの穴」が営業中です。

1.Osteria Belle Donne(駅近くのレストラン)
2.Il Latino(駅とカッライア橋の間くらいにあるレストラン)
3.Babae(川向うサント・スピリト地区のレストラン)
4.Fiaschetteria Fantappie’(川向うサント・スピリト地区の地区のワインバー)
5.DiVin Boccone(川向うサント・スピリト地区のデリ)
6.Cantina de’ Pucci(ドゥオモ近くのレストラン)
7.Gelateria Vivoli(サンタ・クローチェ教会近くのジェラテリア)
8.Osteria San Fiorenzo(サンタ・クローチェ教会近くのレストラン)
9.Pietra Bianca(サンタ・クローチェ教会近くのレストラン)

フィレンツェに残る「ワインの穴」

上の写真は、1.Osteria Belle Donne。観光客がこのワインの穴体験をするために並んでいました。昔と同じように、まずはノックしてドアが開いたら注文と支払い、一度ドアが閉まり、準備できたらドアが開いてグラスワインが出てきます。左横に注文できるグラスワインの料金表があります。

現在、フィレンツェ市内では180以上(うち旧市街に155か所)、フィレンツェ以外にも110か所以上!さらに教会では消えてしまった穴や跡だけが残った穴など、新たな穴の発掘やその歴史などについて調査を続けています。
1年ほど前に、レプッブリカ広場近くのパルテ・グエルファ邸でその協会の展示会があったので訪問してきました。13世紀起源の歴史的な建物で、現在は市役所の部署、カルチョ・ストーリコ本部など、歴史文化団体の事務所が入っている建物です。外には展示会の旗がたち、写真を撮っていたら「展示会やってるよ!」と勧誘され、階段までエスコートしてくれたのですが、「たくさんの人に見て欲しい!」という協会の人の情熱が感じられました。

フィレンツェに残る「ワインの穴」

展示会では、ワインの穴がある建物の再現や、ワインの穴があるドアなどの展示、ツアービデオ上映、ワインの穴をモチーフにしたアクセサリーの展示など。ワインの穴を利用している店が記されたマップの無料配布や、協会が発行している本も販売していました。
見た目も可愛い、歴史を知るとまた愛おしくなるワインの穴。マップを見ながら周るもよし、敢えてマップは見ずに散策しながら壁沿いを探してみるもよし、上に紹介したお店に体験しに行くもよし。皆さんそれぞれのワインの穴めぐりを楽しんでくださいね。

フィレンツェに残る「ワインの穴」


文・写真/中山久美子
日伊通訳・コーディネイター。2001年にフィレンツェ留学、結婚ののち、2005年よりトスカーナ北部の田舎に在住。トスカーナの小さな村、郷土料理やお祭り、料理教室などのプログラムを紹介するサイト「トスカーナ自由自在」を運営。イタリアの美しい村30村を紹介した「イタリアの美しい村を歩く」を東海教育研究所より出版。