水源と栗の「美しい村」、サンタ・フィオーラ
イタリア各地の水にまつわる村の紹介、最後はトスカーナ南部アミアータ山(標高1738m)にあるサンタ・フィオーラです。
サンタ・フィオーラは890年の記録にも残る古い村で、中世にはアルドブランデスキ家の伯爵領となり、その領地は現在のアミアータ山の村の多くを含む広大なものでした。1200年代にはトスカーナの重要地でシエナのギベッリーナ派(皇帝派)の拠点となり、反対勢力でありアミアータ山のもう1つの有力地であったアッバディア・サン・サルヴァトーレと対抗していたそう。1300年代後半にはシエナの支配下に置かれて力を急速に失いますが、1400年代中にはスフォルツァ家との婚姻し、一時はグイード・スフォルツァが芸術家などを呼び復興を試みるものの、1624年にはトスカーナ公国に組み込まれます。そんな歴史がつまったのが中心のガリバルディ広場で、アルドブランデスキ家時代の塔2つ、そしてスフォルツァ家時代の館があり、後者は現在、ツーリストインフォメーションや鉱山博物館になっています。
この広場以外にも、2つ大きな見どころがあります。1つ目は、12世紀建設のロマネスク=ゴシック様式の聖フローラとルチッラ教会。コレクションとも呼べるほど、中世~ルネサンス時代、フィレンツェを中心にトスカーナで活躍したロッビア工房の彩色テラコッタの作品が多く残っています。
そこから教会正面右側に続く道からアーチをくぐると、上下に別れた村の下のエリアへ行くことができます。大自然の絶景を見ながら、もう1つの見どころ・ぺスケリーアに向かいましょう。
13世紀頃から知られるこの池は、源泉からの水をひいて元々はマスのいけすとして使われ、その後もスフォルツァ家の庭として使われていたそうです。ペスケリアの水は東側に流れた先は、かつての洗濯場。そしてその右横に建っているのが、15世紀建設の雪の聖母教会です。中は質素でありながら17世紀のフレスコ画が今も残り、そして床には透明パネルが貼られ、下に流れる水が見えるようになっています。ちなみにペスケリアの近くにある源泉所は、今もこのエリアに水を供給する大事な施設でありますが、ガイド付き予約制の一般公開も行われています。
ペスケリアの南と東側には、もう1つの旧市街が広がります。歴史的建築物や商店の多い上の旧市街に比べ、今も普通に人が住む日常が感じられる場所で、家の前で読書するおじさんや、ご近所さんとおしゃべりするおばさんに「邪魔してごめんね」と心の中でつぶやきつつ、昔ながらの町並みを歩くのがたまりません。
アミアータ山は栗の産地でもあるため、10月には栗祭りが開催され、栗や栗製品のスタンドがガリバルデイ広場に立ち、栗拾い体験なども行われます。1927年創業の老舗のレストラン「イル・バリオット」では、栗ペーストとリコッタの具を栗の粉で作った生地を包んだ栗のラヴィオリが提供され、ポルチーニとイノシシのラグーの2種類のソースどちらと食べても美味でした。
またサンタ・フィオーラは、コロナからリモートワークが盛んになったことを受け、「サンタ・フィオーラ・スマート・ヴィレッジ」と称する移住プロモーションを開始。家賃や生活費の一部を市が負担して移住後のフォローを手厚くすることで移住者を増やし、それが成功を収めて過疎化に悩む村のモデルとしても注目されています。
夏はやっぱり海を連想するイタリアですが、今回紹介したような水にゆかりのある内陸の村々も、涼を感じられる穴場の村ばかり。次の旅行のヒントにしてみてくださいね。
文・写真/中山久美子
日伊通訳・コーディネイター。2001年にフィレンツェ留学、結婚ののち、2005年よりトスカーナ北部の田舎に在住。トスカーナの小さな村、郷土料理やお祭り、料理教室などのプログラムを紹介するサイト「トスカーナ自由自在」を運営。イタリアの美しい村30村を紹介した「イタリアの美しい村を歩く」を東海教育研究所より出版。