ミンチョ川に浮かぶ、伝説が残る村・ボルゲット

ミンチョ川に浮かぶ、伝説が残る村・ボルゲット

イタリア各地の水にまつわる村、今回はヴェネト州のボルゲット・スル・ミンチョを紹介します。村の名前は「ミンチョ沿いにある小さな村」の意味。ミンチョとはイタリア最大の湖・ガルダ湖からイタリア最長の川・ポー川に合流する川で、ロバルディア州とヴェネト州の州境近くにあります。そんな立地から、中世よりミラノ、ヴェローナ、ヴェネツィアとの勢力争いの舞台にもなりました。そしてボルゲットは、ガルダ湖から10キロほど下ったところにある集落。川の中州と東側を挟んだ集落にはホテルや飲食店が所狭しと並び、北側にはこの地のシンボルでもあるヴィスコンティ橋がそびえます。

ヴィスコンティとは中世時代のミラノの領主。ミラノがここを統治していた1339年に建設され、幅は25m、長さは650mを誇ります。私も朝晩2回ここを渡ってみましたが、本当に大きな橋で、外観や途中にそびえる塔の残骸は当時の様子を忍ばせてくれます。この中腹から見るボルゲットの村は本当に愛らしく、また早朝に橋の西端から見る隣町、ヴァレッジョ・スル・ミンチョのスカリージェリ城が朝陽に染まる空にシルエットが浮かび上がり、絵画の中に入り込んだような気分になりました。

さてこのボルゲット、この地に残るある伝説から「愛の村」としても知られています。時は14世紀の末、ミンチョ川沿いに野営をはっていたミラノ軍の大尉と川の妖精が恋に落ちます。しかし大尉に好意を抱いていたビスコンティのいとこが嫉妬から妖精を魔女だと監禁させ、最終的に妖精を助け出した大尉は愛を成就させようと一緒に川に飛び込んでしまうのです。

その時に川べりに残されていた、彼が愛の印として腕に結んでいたハンカチをモチーフに、郷土パスタが生まれます。その名も「愛の絆」。ハンカチのような薄く柔らかいパスタ生地で肉ペーストを包んだトルテッリ―ニで、ソースに絡めたりスープに浮かべたりしていただきます。私は冬の寒い時期に行ったので、滋味深い味わいのスープで暖を取りましたが、デリケートなパスタはするっと口に入ってきて、心も胃袋も癒されました。

なんとこの「愛の絆」パスタ、1993年のヴィスコンティ橋建設600周年記念イベントから今も続くお祭りの名前となり、当日は橋の上に並べられた合計1キロにも及ぶテーブルで3000人以上の参加者にこのトルテッリ―ニが提供されます。大尉と妖精はもちろん、当時の衣装に身を包んだ人々がかつての様子を再現し、村は大いに盛り上がります。

このイベントの時だけでなく、愛の村はその伝説にあやかって永遠の愛を誓うカップルもよく訪れるよう。ヴェネツィア統治時代に設置された農地に水を送るための水車には、カップルの名前が書かれた南京錠がいくつもかけられています。川に突き出たレストランでは、テーブルの上で手をにぎって見つめ合うカップルも・・・とはいえ、私も1人旅、そして家族連れや友人同士の旅行者もたくさんいますので、カップルでなくともぜひ訪れて頂きたい村です。

直通バスはないに等しく、隣町のヴァレッジョ・スル・ミンチョから20分ほど歩くことになるため、この町に宿泊するのも良いでしょう。ボルゲットに宿泊される場合でも、大きな荷物がなければ景観を見ながらの道中はさほど辛くありません。数軒ある川沿いの宿泊施設だと川のせせらぎや水鳥の姿が心地よく、ちょっと非現実な世界に浸ることができますよ。


文・写真/中山久美子
日伊通訳・コーディネイター。2001年にフィレンツェ留学、結婚ののち、2005年よりトスカーナ北部の田舎に在住。トスカーナの小さな村、郷土料理やお祭り、料理教室などのプログラムを紹介するサイト「トスカーナ自由自在」を運営。イタリアの美しい村30村を紹介した「イタリアの美しい村を歩く」を東海教育研究所より出版。