トスカーナおらが村便り| Mail Magazine 21 Ottobre 2020
10月も半ばになり、秋も深まってきました。しかし、この1か月は雨が多く、1週間に5日は雨、少し持ち直してまた雨・・・というサイクルで、なかなか外へ出て楽しむことができません。この週末は久しぶりに気持ちのいいお天気だったので、おらが村住民の定番の散歩コース、湖に行ってきました。湖と言っても村の中心から歩いて5分、川の氾濫を抑えるために作った人工湖で、湖というよりちょっと大きな池、という感じ。公園やフットサルコート、近隣のカゼンティネージ国立公園のビジターセンター、おらが村釣りクラブもあり、まさに市民の憩いの場となっています。今はたまにしか行きませんが、息子たちが小さい頃は毎日のように通っていた愛着のある場所です。
息子たちと一緒の時は全く気付かなかったのですが、近年こんな風に1人でゆっくり散歩に出かけていると、新しい発見がいくつもあります。10月の前半の楽しみは、この野生のシクラメン。花屋さんで売っているシクラメンよりもかなり小さく、色もほのかなピンク色です。雑草と枯れ葉の中に埋もれてひっそりと、しかし凛とした雰囲気がとてつもなく愛おしいでしょう?
雨続きで空気が澄んでいるからか、秋は水面が鏡のようになって空の青、黄の緑がくっきりと浮かび上がり、まさに絵画のよう。ひっくり返してもどちらが本物か分からないほどです。葉が色づくのはもう少し先ですが、ご覧のようにこちらは紅くなる葉はあまり多くなく、湖周りの木はほとんどは黄色に変わります。湖周りの歩道は黄色のじゅうたんになるんですよ。
シクラメンに続き、昨年に見つけて楽しみにしていたものが2つあります。1つ目は「セイヨウマユミ」。私を見て!と言わんばかりの、鮮やかなピンク色の実が目を引きます。この実が熟すと自然に裂け、これまた鮮やかなオレンジ色の種子が顔を出すのが何とも面白く、じっと観察してしまいます。マユミは日本でも沖縄を除く全国の産地に見られるそうなので、みなさんも探してみて下さい。
もう1つは「マツムシソウ」。淡い青紫で、自分の空間を探すようにクネクネしている様が愛らしいです。おらが村中心は300mほどなのですが、本来は標高が高い場所にしか咲かないそうで、山手のほうに散歩に行けばもっとたくさん見られるかもしれませんね。開いた花も美しいですが、幾何学的なつぼみの細部を見ていると、自然の摂理に従った整然とした美に心を奪われます。
今月に入り、イタリアではコロナウィルス新規感染者の増加が続き、ロックダウンは回避しつつも新たな規制が課されました。先が見えない日常生活ですが、この自然に生きる植物のように、惑わされることなくしなやかに、凛として生きていきたいものです。
文・写真/中山久美子
日伊通訳・コーディネイター。2001年にフィレンツェ留学、結婚ののち、2005年よりトスカーナ北部の田舎に在住。トスカーナの小さな村、郷土料理やお祭り、料理教室などのプログラムを紹介するサイト「トスカーナ自由自在」を運営。https://toscanajiyujizai.com/