聖母被昇天の日
聖母被昇天の日~Chiacchiere!/Mail Magazine 03 Agosto 2023
世界遺産の街並みや美しい風景、古代ローマから続く歴史、芸術や料理にサッカーなど様々な分野で世界中に知られるイタリアですが、カトリック教徒が多数を占める国としても有名です。そんなイタリアではキリスト教の祝日はとても重要なもの。イースターやクリスマスはもちろんのこと、各地の聖人の日など多くの祝日があるのは皆様もご存知の通り。8月にも「聖母被昇天の日(Assunzione di Maria)」があり、こちらもまた、特にカトリックの中では大切な祝日の一つです。今日はこの聖母被昇天の日について見ていきましょう。
イタリア語で 「Assunzione/アッスンツィオーネ」と呼ぶ8月15日の聖母被昇天の日は、イタリアでは国民的祝日となります。キリスト教のカトリック教では1950年に教皇ピオ12世によって正式に教義とされたとされています。イエス・キリストの母である聖母マリアが肉体と霊魂ともに天に召されたとされる日であり、キリスト教徒にとってマリアへの深い敬意を表す大切な日です。東方正教会では6世紀頃に「マリアの死去の日」として祝っていたものが、西方教会へと伝わり、8世紀ころには「被昇天」として祝われるようになったのではないかと言われています。なぜ8月15日なのか、その理由や具体的な日付が聖書に明確に示されているわけではないようで、後の教会の伝統や教義によって確立されたものだとされています。
カトリックの総本山、ローマ教皇庁の本部があるイタリアのローマでは特に重要な行事となり、聖ペテロ大聖堂やサンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂などでは特別なミサが執り行われます。この日は教会も飾り付けをし、キリスト教の信者たちがマリアに対する感謝と祈りを捧げます。その他の地域でも、伝統的な行事として、地域ごとに独自の慣習があり、この日は花やろうそくを持って聖母マリアを称える行列が街を練り歩く姿など、地域の特色と信仰の結びつきを見ることができるのです。
実は、イタリアではFerragosto(フェッラゴスト)とも呼ばれるこの日。紀元前18年に古代ローマ帝国の皇帝アウグストゥスによる労働者のための休日でもあったのです。ラテン語で”Feriae Augusti(アウグストゥスの休息)”という意味だそうで、この時代の8月にあったローマ神話に関するいくつかの祝日を連続させることで長期休暇とするために、皇帝アウグストゥスによりこのフェラゴストが作られたのだとか。人間はもちろんのこと、馬やロバなどの動物たちもまた荷物を運ぶといった労働から解放される休みとなり、そこからシエナのパリオに代表されるようなレースなどの伝統行事が生まれたとも言われています。そしてこの古代ローマ時代から存在していた”Feriae Augusti”の8月15日に、聖母被昇天の日をあてたのではないか、という説も。古代ローマとカトリック、2つの祝日も重なって、日本人の私達が羨むイタリアの夏のバカンス期間ができていったのかもしれませんね。
聖母被昇天の日である8月15日はイタリアのバカンスの真っ最中。イタリア人の多くは学校も仕事も休みになるので友達や家族と旅行などに出かけてしまって人が少なくなるなんてことも珍しくありません。外国からの観光客も同じく夏休みで多くイタリアに訪れるようになった現在では、どこもかしこも休業中ということはなさそうですが、お目当てのお店がある場合には夏の営業時間はあらかじめ調べておいたほうが良さそうです。
聖母の被昇天の信仰は、信じる全ての人への救いへの希望を表します。日本では終戦記念日と日を同じくするこの夏の祝日が、世界中で平和な未来を築くきっかけとなることを願ってやみません。
文/アドマーニ