【解説】イタリア食材のマーク「IGP」と「DOP」とは?
「IGP」と「DOP」
いずれもEU(欧州連合)が認める農産物の「ご当地生産物」の基準を意味します。ワインに関しては国ごとに別の基準が設けられています(イタリアではDOC,DOCG。フランスではAOCなど)ヨーロッパを旅していると、お土産やさんなどでこれらのEUマークが付けられた製品を多く目にすることが多いと思います。優良な品物であることを認めるマークであることは間違いないので、一定の基準をクリアした産物と言えます。
ご当地商品といえば我々日本人がすぐ思い浮かべるものとして「魚沼産コシヒカリ」や「夕張メロン」「大間のマグロ」「関サバ・関アジ」といった名前を思い浮かべると思いますがまさにそういう「ご当地」の生産物を他のニセモノから守るべくして作られた制度といえます。イタリアに関して言うと、オリーブオイルやパルミジャーノ・レッジャーノ・チーズ、シチリア産ブラッドオレンジ、さらにはリグーリア産のバジルなどじつに様々な分野の食品にこれらの表記をされているものを多く見受けますし、その一部が日本にも輸入されてスーパーに並んでいたりもします。選ぶのに迷った時には一つの目安となります。
さてEUから「IGP」「DOP」として認定を受けるには、その生産地域、生産国、EUの順で審査に通らなければならず、認定された後も、その製造については、厳しい品質基準を満たすことは当然として、さらに誰が、いつ、どこで作ってものかということを原料にまでさかのぼって証明しなければなりません。「IGP」「DOP」の認定は大変に厳しい制度なのです。IGPが州のようなやや広い地域の特産品認証であるのに対し、DOPはそれよりも狭い町や村の特産品であることを証明するマークとお考え頂ければよいと思います。
地中海式健康法を代表するオリーブオイルに関して言えば、地方ごとにオリーブの種類が異なるために、現在では40種類以上ものDOPが存在し(注記1)、その数は年々増え続けています。それぞれの地域で生産されるオリーブオイルは種類や製法ごとに味わいも異なり、それが料理との相性にも関係してきます。ピリッと辛みがあるトスカーナ地方のオリーブオイルなら、肉料理や豆料理に。フレッシュでフルーティなシチリア産のオリーブオイルなら野菜料理やお魚料理に、といった具合です。
さらにシチリア産オリーブオイルに関してはさらにまた細かい地域ごとにDOPがあるため、例えば同じ新潟県の中でもいくつもの特産米があるといった感じです。オリーブオイルのテイスティングを繰り返しているプロフェッショナルはそういう地方ごとのオイルのテイストの違いが理解できますが、なかなか一般的には理解が難しいところですね。シチリアの東と西を代表するDOPとして、東ではイブレイ山地を代表するオリーブ種「トンダ・イブレア」「モレスカ」が挙げられ、西ではヴァッレ・トラパネーゼを代表するオリーブ種「ビアンコリッラ」がありますが、これらはよく味わってみると香りや辛みが異なる全く別のオリーブオイルです。
DOP制度は生産方法や地域まで細かく限定されているのですが、その中でも各生産者ごとに製造方法が異なる事で品質に微妙な「差」が出てきます。たとえば数億円もするようなコンピュータ制御の最新式搾油マシンで一切空気に触れずにオリーブの製造から搾油、タンク詰まで行ってしまう搾油所があります。極めてピュアなしぼりたての高品質オリーブオイルです。各生産者は毎年あちらこちらで開催されるオリーブオイルコンテストにしのぎを削っており、コンテストを勝ち抜くためにこのような投資を行ってレベルアップを図っているのです。
その理由は、コンテストで賞を取ることによってより海外に輸出しやすくなるからです。厳しい審査員たちに選ばれ、金賞に輝いたとなれば当然、海外のバイヤーたちの目にも止まります。DOPのマークを付けた上に、さらにコンテストの金賞マークを誇らしげに飾り高い値段で取引が行われます。しかしながら、このようなコンテストには出品せずとも、昔ながらの技術で高品質のオリーブオイルを作っている生産者も存在するので、必ずしもDOPマークが付いていないから、またはコンテストの賞を取っていないからといって品質が低いとは言えません。
私はかつて、フィレンツェの中央市場に三世代にわたって続くお店でオリーブオイルのテイスティングを行いました。その中には、キャンティクラシコDOPマークが付いた高価なものもあれば、名もない生産者のものも混じっていて、ブラインドテイスティングで品物を選んでみたのです。すると、値段もそれほど高くないオイルがとても素晴らしい味わいで、迷わず一等賞に選んだのでした。それは決して他の品物に劣るどころか素晴らしい味わいでした。
余談ですが、トスカーナ地方は優れたオリーブオイル産地のひとつですが、過去に一度、DOPからIGPに「格下げ」された期間があります。天候不順によってみまわれた「霜害」が原因で、品質の低下が見られたためでした。そして一度そのような事態になると、またIGPからDOPの認定に変更してもらえるまで、数年間を要します。長らく不幸な経験をした地方の一つなのです。
オリーブオイルほど細かくて多様なDOP製品群は珍しいです。これは、やはり地中海料理の基本の「キ」であるオリーブオイルこそが、イタリア人にとって母なる大地からの恵みといえるほど大切なものであることは想像に難くありません。そのこだわりようは製造者だけでなく、一般の消費者のこだわりを反映したものでもあるのです。一般的にイタリア人たちの話の中心は常に「食」。評論家でもないのにどの店の料理はああだ、こうだと議論を交わしたりしています。それだけ食にこだわりが多いし関心度も高いということでしょうね。
DOP認定がリグーリア名物でもある「ジェノヴェーゼ・ペースト」の原材料にも及んでいることを知る人はあまり多くないと思います。それはバジリコ(バジル)の葉です。温暖なリグーリア地方は魚介類が豊富で、それに似合うデリケートなオリーブオイルの産地です。そしてそのDOPオリーブオイルとチーズ、松の実、バジリコの葉をすりつぶしたものを混ぜ合わせたものがジェノヴェーゼ・ペーストになりますが、その味を左右するのはやはり主成分のバジリコなのです。
リグーリア州の州都ジェノヴァからローカル線に乗って1時間以上かかる小さな村「インペリア」が最高級バジリコの産地になります。小さめで香りが高く、ペーストにした時に他の地方とは別格の風味になります。そしてその中でも最も味や色味が良いとされるのが春です。実は今ではビニールハウス栽培によって一年中、バジリコが生産されているのですが、トップシーズンとそれ以外のシーズンとではやはりできが異なってきます。実際に、トップシーズンを外れた季節に製造されたジェノヴェーゼ・ペーストは明らかに色もどんよりしているし、味わいもなんとなく貧弱でした。
「食」にこだわり、旬や製造方法にこだわる。そんなイタリアンライフ、素敵だと思いませんか?人間の体は「食べるもの」でできていますし、それはしばしば入れ替わっています。どんな体を作りたいか?それにはどのような食品を選んだらよいのか?常に気を配りたいところですね。
注記1
Aprutino Pescarese D.O.P. (Abruzzo)
Colline Teatine D.O.P. (Abruzzo)
Pretuziano delle Colline Teramane D.O.P. (Abruzzo)
Vulture D.O.P. (Basilicata)
Alto Crotonese D.O.P. (Calabria)
Bruzio D.O.P. (Calabria)
Lametia D.O.P. (Calabria)
Cilento D.O.P. (Campania)
Colline Salernitane D.O.P. (Campania)
Irpinia – Colline dell’Ufita D.O.P. (Campania)
Penisola Sorrentina D.O.P. (Campania)
Terre Aurunche D.O.P. (Campania)
Brisighella D.O.P. (Emilia-Romagna)
Colline di Romagna D.O.P. (Emilia-Romagna)
Tergeste D.O.P. (Friuli Venezia Giulia)
Canino D.O.P. (Lazio)
Colline Pontine D.O.P. (Lazio)
Sabina D.O.P. (Lazio)
Tuscia D.O.P. (Lazio)
Riviera Ligure D.O.P. (Liguria)
Laghi Lombardi D.O.P. (Lombardia)
Garda D.O.P. (Lago di Garda)
Cartoceto D.O.P. (Marche)
Molise D.O.P. (Molise)
Collina di Brindisi D.O.P. (Puglia)
Dauno D.O.P. (Puglia)
Terra d’Otranto D.O.P. (Puglia)
Terra di Bari D.O.P. (Puglia)
Terre Tarentine D.O.P. (Puglia)
Sardegna D.O.P. (Sardegna)
Monte Etna D.O.P. (Sicilia)
Monti Iblei D.O.P. (Sicilia)
Val di Mazara D.O.P. (Sicilia)
Valdemone D.O.P. (Sicilia)
Valle del Belice D.O.P. (Sicilia)
Valli Trapanesi D.O.P. (Sicilia)
Chianti Classico D.O.P. (Toscana)
Lucca D.O.P. (Toscana)
Seggiano D.O.P. (Toscana)
Terre di Siena D.O.P. (Toscana)
Toscano I.G.P. (Toscana)
Umbria D.O.P. (Umbria)
Veneto D.O.P. (Veneto)
公式オリーブオイル協会「cittadellolio(チッタ・デッローリオ)」HPより引用