イタリアの工房事情って?

イタリアの工房事情って?

イタリアオリーブオイル~Chiacchiere!/Mail Magazine 20 Gennaio 2021

イタリアに行ったことがある方であれば、イメージできる人は多いと思いますが、イタリアには多くの工房が存在しています。
イタリアと聞いてイメージするものといえば、どのようなものですか?
古代の遺跡、サッカー、オペラ、映画祭、フェラーリやランボルギーニ、仕立て屋、ファッション、デザイン、革製品、世界遺産など・・・・あげればきりがない程出てきます。

これらのほぼすべてがイタリアの職人たちが作る「世界の一級品」とされ、世界各地で称賛されています。ここに秘められた技と美意識、そして職人たちの知られざる人生をほんの一部ですが、今日はご紹介していきたいと思います。

手縫いの靴工房

イタリアの靴と言えば、革で作られた上品な靴。
かつて、第二次世界大戦後の経済成長で、製造業と共にゆるぎない地位を持ったイタリアの世界こそ、“職人たちによる手工業”です。
イタリアン・シューズの聖地といえばイタリア中部マルケ州。その中でも紳士靴の専門工房を数多く育んできた地域がモンテグラナーロという丘の上の旧市街です。
マルケ州はかつて農業を中心とした貧しい地域だったのですが、18世紀後半から19世紀初頭にかけて馬の革を底に使った部屋履きにマルケ人達が創意工夫を施し、次第に部屋履きから靴へと移行されたようです。

イタリアの工房事情って?

そのマルケ州にある一つのス・ミズーラ(注文制作)の紳士靴工房の職人曰く、「昔からイタリアの靴は“52の工程が要る”と言われるほど、手間をかけた贅沢なプロダクトです。でも不思議なことに、僕は作業台の前でストレスを感じません。靴づくりの時間は無心になれる。いわば瞑想に近いものなのです。」と。
52もある複雑で力のいる行程を瞑想のような感覚で靴制作ができるとは・・・今までの経験がどれほどのものなのか、まったく想像できませんでした。このような根っからの職人さんはイタリアにはたくさん存在しており、それを受け継いでいくべきだと心から実感しています。

小さな工房に息づく技術と職人。
これらはどちらも一級であり、逆に言うと一級でなければ、代々引き継がれ、支えられていないかもしれません。
そのイタリアの技術と職人たちが生きる場所こそが工房なのかもしれません。

職人

イタリアに行くと至る所で目にする言葉“ARTIGIANOアルティジャーノ”。看板でもよく見かけることがあるかもしれません。和訳すると“職人”という意味です。

私たちの身近な場所でも、多くの職人さんが携わり、活躍しています。
例えば衣食住で考えた時、イタリアのテーラー。スーツ一着作るのにもまずはデザインをし、パターンをし、縫製をして出来上がります。ファッションの分野が秀でているイタリアでは容易に想像できるかもしれません。
食ではヴェネツィアングラスを使って水を飲み、陶器職人のお皿や木工を利用して食事を楽しみます。また、住となればアンティーク家具修復を専門に扱うリペア職人・家具職人など多くの職業があげられます。

イタリアの工房事情って?

日本と同じですがこれらの職人業は、昔からの手法を代々引き継がれた技術を大切にしています。
イタリアでは、その職人を育成する学校もあり、未経験の新人を採用して持続する可能性と品質を最優先する精神を徹底して教えているそうです。
というのも、イタリアも少子高齢化が進み、後継者不足の問題があります。
イタリアの素晴らしい技術を身近な親族に継いでいくことが難しく、また若者の職人離れもあり、深刻な問題にさらされています。

海外からその技術を学びにくる留学生もたくさんいるのですが、彼らは母国へその技術を持ち帰り、母国で広めようとする方が多いのです。
イタリアの技術を受け継ぐという意味では理にかなっているのかもしれませんが、実際職人たちはイタリアで技術を引き継いでほしいと考えています。

だからこそ、イタリアはさらに新しい技法を開発し取り入れながら職人業を守り続け、ヨーロッパの腕の良い職人が集まり、お互いに刺激を与え合いながら独自のアート文化を発展させ続けているのです。

現在、大量生産に力を入れるメーカーが多い中、この職人たちは一つ一つ時間をかけて量産はできませんが手工業で高品質な作品を作り続けています。

そして、すべてのイタリア職人に共通する点は、自分の仕事に自信と誇りを持っている事。日本の寿司職人に似ている部分があるかもしれません。
長い経験と研究の積み重ねから素材・構造などを知る尽くしているために、アイデアが豊富にあり、発想も豊かです。そして仕事を完璧にする為、自分が納得できないものを作ることが出来ないのです。これは職人としての自信があるからこそ、満足のいく素晴らしい物をつくる為の職人のこだわりなのです。

イタリアの工房は街のいたるところに存在します。
イタリアに行けるようになった際にはぜひ、工房をのぞいてみてください。
こだわりを持った世界でたった一人の職人たちに出会うことが出来ることでしょう。

文/アドマーニ