サン・ジョヴァンニ・ヴァルダルノへフラ・アンジェリコの名画を訪ねて

サン・ジョヴァンニ・ヴァルダルノは、フィレンツェから電車で約30分、ちょうどフィレンツェ県からアレッツォ県に入ったすぐの町です。1299年、フィレンツェ共和国によって建設された歴史ある町なのですが、目立った観光地ではないものの隠れた見どころがたくさんあります。その1つが、駅のホームからもドドーン!と、ひときわ目を引く塔とクーポラを持つサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会。町の中心である広場にあります。

正面にある3つの扉のうち中央が教会の起源である「奇跡の礼拝堂」。1478年、モンナ・タンチャという老女が両親をペストで亡くした孫に母乳を与られず絶望してここで祈りを捧げると、彼女の乳房から母乳が出るようになり孫に授乳できるようになったという奇跡が起こりました。この伝説から礼拝堂の上に大聖堂の建築が始まり1520年代に完成しましたが、現在の正面部分は1840年から1856年に改築されたため、ルネサンス様式とネオクラッシック様式がミックスした造りになっています。教会内部では祭壇のフレスコ画、隣のモンナ・タンチャの奇跡を描いたもの、天井のフレスコ画などが見どころとなります。

また教会を出て右側の柱廊の下に付属美術館があり、ここにかのフラ・アンジェリコのもう1つの「受胎告知」があります。彼の同名作品はトスカーナに4点ありり、もっとも有名なのはフィレンツェのサンマルコ博物館の階段上のもの。同博物館の2階の独房のもう1作と、コルトーナのドゥオモ付属博物館のものになります。フラ・アンジェリコファンの方は、ぜひ4作を巡る旅をしてはいかがでしょうか?

付属美術館の左はサン・ロレンツォ教会。主要な美術品は先ほどの付属博物館に展示されていますが、右側の身廊にある1400年代のフレスコ画が見事です。残念ながら剥がれ落ちている部分もあって明瞭には見えないのですが、これもその年月の重みを感じさせてくれる貴重な証拠ですね。

サン・ロレンツォ教会を出ると右側、ちょうどサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会の真ん前にあるのがプレトリオ宮。フィレンツェのドゥオモ(ファザード)やサンタクローチェ教会、シニョーリア宮殿を設計したアルノルフォ・ディ・カンビオ が1229年、フィレンツェ共和国の「新領地」となったこの地の都市設計も任せられたことから、アルノルフォ宮とも呼ばれています。この建物は行政執務用に建てられたもので、現在はトスカーナ新領地ミュージアムとして中世以後、トスカーナ、特にフィレンツェ共和国が新領地を獲得しどのように都市を作っていったのかを知るための資料などの展示と、時にイベントホールとして使用されています。

この町はまた、遠近法を屈指しフィレンツェのブランカッチ礼拝堂やサンタ・マリア・ノヴェッラ教会に作品を残し、ルネサンスの先駆けとなったマザッチョの故郷。メインストリートには1401年12月21日にここで生まれた彼の生家が残っています。間口の狭い建物ですが、2階の窓の間にある彼のレリーフを目印に探してみてください。青年時代にフィレンツェに移って芸術を学びその才能を開花させたため、残念ながらこの町には彼の作品は残っていません。この生家も現在は不定期にコンテンポラリーアートの展示会などに使用されています。

フィレンツェに滞在してもアレッツォに滞在しても、どちらからも直通電車で簡単に行けるサン・ジョヴァンニ・ヴァルダルノ。有名作品や歴史的建造物を見学したら、ゆったりと時間が流れるイタリアの日常も楽しんでくださいね。


文・写真/中山久美子
日伊通訳・コーディネイター。2001年にフィレンツェ留学、結婚ののち、2005年よりトスカーナ北部の田舎に在住。トスカーナの小さな村、郷土料理やお祭り、料理教室などのプログラムを紹介するサイト「トスカーナ自由自在」を運営。イタリアの美しい村30村を紹介した「イタリアの美しい村を歩く」を東海教育研究所より出版。