「バルサミコとは」イタリア食材研究:4
差別化と製造方法
トラディツィオナーレ・バルサミコの製造は、ブドウの品種から、木樽での熟成法、ビン詰めの仕方までが法によって定められています。トラディツィオナーレ・バルサミコという名前で販売するためには、熟成に最低12年以上の年月をかけたものでなければなりません。こうして出来上がったヴィネガーは、生産者協会認定のassagiatoriと呼ばれる熟練したテスターたちによるブラインド・テストにパスして初めて認定が与えられます。登録番号シールが貼られていますテストの際には、どこの誰が作ったのかは、一切知らされないので、あくまでも品質だけの真剣勝負なのです。
100ccの特殊な形状の瓶は、ぶどうをモチーフにしたジウジアーロデザインのもの。ワインと同じようにD.O.P.(原産地呼称保護制度)のシールで封印されて、生産者に返されます。こうして初めて生産者を通じて発売されるのです。一本一本には世界で一つの登録番号が与えられ、協会に記録が残ります。ファクトリーの区別は唯一、ボトルの1面に張られるラベルだけになっています。
トラディツィオナーレ・バルサミコは100%ブドウのみから作られ、添加物は一切許されません。ブドウは白ブドウで、昔からモデナ周辺の丘で栽培される甘味のあるトレッビアーノ種が使われています。特にカステルベッロの低い丘周辺はトラディツィオナーレ・バルサミコにとって貴重な原料供給源です。何世紀にもわたる改良によって、理想的な原料が作られるようになったとのことです。更に何種類かのぶどうが使われますが、特に、”Trebbiano di Spagna”という品種が好まれます。この Trebbiano di Spagna という種類のブドウは、他のトレッビアーノよりも、よく熟して甘みの強いジュースがとれます。また赤のランブルスコを採用するメーカーもあります。
屋根裏のような熟成部屋内部ぎりぎりまで収穫を遅らせて木で熟成されたブドウを搾った果汁は、ワインの場合と同じく、粉砕されて砂糖がアルコールに変化する寸前に布で漉され銅の大鍋に移され、原料熟成度・糖度・作り手の特殊能力に応じて、最初の量の30~70%までゆっくりと煮詰められます。再び漉されたこのブドウのジュースは「マストコット」と呼ばれ、冷ましたあとでオークやクリなどの「バッテリアス」と呼ばれる樽に詰められます。
冬には雪が降り、夏には40度以上の猛暑となるモデナ。保管場所はワインなどと違って、屋根裏のような高い場所です。このような温度差が、トラディツィオナーレ・バルサミコの生成にとっては大変重要なのです。 アルコールが酢酸発酵して出来上がったヴィネガーは、次の樽に移されます。このような過程を「トッピングアップ」と呼びますが、だいたい6回から12回以上もヴィネガーは樽から樽へと移し替えられます。入れ替えは樽の半分ずつの量を次の樽に入れてゆくというものです。うなぎの蒲焼で使われる秘伝のタレのように、古いものに新しいものを足しながら、水分を蒸発させて行きます。
樽の原材料となる木の種類は、大体オーク(ナラ)、クリ、サクラ、トネリコ、クワ、の順番で徐々に小さな樽に移し変えられていきます。この入れ替えの順番によっても最終的な味が変わってくるため、各メーカーによって絶え間なく研究が続けられています。木樽は、最も大きいものが60リットル、小さいもので5リットル、全て酢酸菌が呼吸できるように上部があいていて、白いハンカチなどで軽くふたをされます。最初のオーク樽で60Lだった「マストコット」は、12年の間に50L→40L→30L→20Lと少なくなっていき、貴重な雫(しずく)に凝縮されていくのです。25年熟成の場合、100キロのぶどう原料が、最後には百分の一の1キロ弱になり、製品としては僅か7本分にしかなりません。
「トラグン」と呼ばれる壷この木樽の種類と移し替えは、それぞれの生産者農家で代々語り継がれた秘伝の製法によって行われ、トラディツィオナーレ・バルサミコの味が競われるのです。最後は丸い細首の両側に取っ手の付いた”トラグン”と呼ばれる陶磁器製の容器に入れられ、さらにこの中で熟成されます。これこそが、12年~25年の歳月を経て完成した由緒正しい「トラディツィオナーレ・バルサミコ」なのです。歴史のあるアチェタイア(醸酢家)には50年・100年熟成のバルサミコも現存しています。