アオスタ:Via Francigenaで訪れる ”アルプスのローマ”

アオスタ:Via Francigenaで訪れる『アルプスのローマ』

【第七話】イタリア巡礼路を辿る†~魂を彩る神聖な旅~

ヨーロッパアルプス山脈の最高峰モンブランの麓に”アルプスのローマ”と呼ばれる街があるのをご存知でしょうか。イタリア北西部、ヴァッレ・ダオスタ州の州都アオスタ(Aosta)。フランスとの国境に接し、イタリア語とフランス語が公用語とされるなど、両国の文化が入り交じるこの街は独特の雰囲気と深みを感じることができる場所。それは、アオスタの食文化や自然との共存にも現れています。クリーミーで豊かな風味が特徴のフォンティーナチーズを使った、フォンデュやリゾット、サンドイッチなどの料理は、地元の名物として親しまれ、高品質で独自の風味を持つ地元のワインも楽しむことができるのです。また、アルプス山脈に囲まれ、四季を通じて様々なアウトドアアクティビティができるため、夏にはハイキングやマウンテンバイク、冬にはスキーやスノーボードをする人も。さらに、アオスタ渓谷とピエモンテ地方の間、グライアンアルプスにある「グラン・パラディーゾ国立公園」は、登山だけでなく豊かな動植物と美しい風景が楽しめる必見のスポットです。Via Francigenaを行く巡礼者もまた、アルプス越えの途中に出会うアオスタの自然や文化に触れ、長き巡礼の旅への心身の癒しを得たのではないでしょうか。そんなアオスタの歴史と見どころを、今日はもう少し詳しく見ていくことにしましょう。

アオスタという街は、紀元前25年にローマ帝国のアウグストゥス皇帝によって「アウグスタ・プラエトリア・サルヴァ」という都市が建設されたことに始まります。ここはアルプス越えの2つの峠が交わる要所であり、ローマ帝国時代の軍事拠点として栄えました。アオスタの都市計画や建築物の多くがその時代の影響を受けており、市内にはローマ劇場やアウグストゥスの門など点在する遺跡が、古代ローマの繁栄を伝えています。中世には神聖ローマ帝国の一部として位置づけられ、アオスタはローマへと続くVia Francigenaの中継地として重要な役割を果たしました。
先史時代からケルト人やリグリア人、そしてローマ帝国の征服といった数多くの民族や支配者による影響を受けてきたアオスタを、11世紀に治めることとなったアオスタ伯はサヴォイア家の家祖であるウンベルト1世でした。やがてサヴォイア家は、サルデーニャ王国を建国し、19世紀のイタリア統一をもたらしたことは、歴史に知るところ。現在もアオスタは、サヴォイア=アオスタ家が保持するアオスタ公爵の称号を受け継いでいるのです。

アオスタ:Via Francigenaで訪れる ”アルプスのローマ”

アオスタを訪れたなら、まずサントルソ教会を見ておきましょう。5世紀に建てられたサントルソ教会(Collegiata dei Santi Pietro e Orso)は、アオスタにおける重要な中世の宗教建築の一つで、11世紀から12世紀にかけてロマネスク様式で再建されました。その華麗なフレスコ画と彫刻でも有名です。5世紀から6世紀にかけて活躍したと伝えられる聖オルソ(Sant’Orso)の遺物が教会内に安置されています。貧者や病者の救済に尽力したという聖オルソにちなみ、毎年1月には「聖オルソのフェア」という大規模な伝統行事が開催され、地元の工芸品や食べ物が並ぶ市場が開かれ、多くの観光客で賑わうのだとか。

サントルソ教会

また、アオスタ大聖堂もまた見逃せない場所の一つです。この大聖堂はサンタ・マリア・アッスンタ教会(Cattedrale di Santa Maria Assunta)とも呼ばれる歴史的にも重要な建物です。大聖堂は4世紀に建設され、その後幾度も改修を重ねられてきました。現在の建物は主に11世紀から14世紀にかけてのもので、ロマネスク様式とゴシック様式が融合したデザインが特徴です。大聖堂のファサードの見事な彫刻は、聖母マリアの生涯を描いたシーンが描かれています。内部には、美しいフレスコ画やステンドグラスが施されており、特に12世紀のサン・ジョヴァンニ・バッティスタのフレスコ画は見どころの一つです。モザイクの床も見事なもので、大聖堂の地下に残された初期キリスト教時代の遺構も必見。
そんなサントルソ聖堂とアオスタ大聖堂は、1132年頃に宗教的対立をしていたのだそう。どちらもフレスコ画や床のモザイクといった装飾が素晴らしいロマネスク様式の重要な建築物ですが、そうした歴史的事実も知るとなお、アオスタという街がどのような変遷をたどってきたのかをより深く理解することができるでしょう。

アオスタ:Via Francigenaで訪れる ”アルプスのローマ”

古代ローマの遺跡から中世の宗教建築、そして周囲の自然の美しさ。アオスタには多くの魅力が詰まっています。Via Francigenaの巡礼者たちは、この国境の街で心を豊かに過ごすことができるのでしょう。トリノから車で約2時間のアオスタを、皆さんもぜひ一度訪ねてみてはいかがでしょうか。

アオスタ:Via Francigenaで訪れる ”アルプスのローマ”

文責/アドマーニ