おらが村の「アーチストのレジデンス」

おらが村の「アーチストのレジデンス」

おらが村こと私が2005年から住む村では、一昨年からPNRR(コロナ後のEU諸国の復興・強靭化計画)の資金を活用し、村の観光を中心とした活性化に取り組んでいます。Montagna Fiorentina(フィレンツェの山)と名付けられた団体が推進するおらが村と近郊のもう1つの小さな村のプロジェクトは、今ある資源を生かしながら山、森、町の独自のアイデンティティを加味しての再開発を目指し、町と自然という環境、住民と訪問者という人間、これらの関係を構築を目指す文化的な活動です。そのうちの1つが、この「アーチストのレジデンス」。

おらが村の「アーチストのレジデンス」

その名前の由来は、公募により選ばれた3人のアーチストが2か月間、おらが村に移住することから始まるから。その間にアーチストはおらが村の市領域を周って町や自然を観察し、また生活することによって住民ともふれあい、それぞれのインスピレーションからおらが村のアイデンティティをアートで表現します。計画では1年ごとの開催で合計3年の予定。昨年の第一回目のアートは今まで見たことがなかったのですが、それもそのはず、調べてみると1つはショー形式で後に残らず、もう1つは森の奥の石に描かれたアートで車でわざわざ行かないと見られないもの。残り2つは音:村を取り囲む森の音、もう1つは12時、16時、20時に鳴る市庁舎の時計の音のアートでした。

おらが村の「アーチストのレジデンス」

いっぽう、二回目の今年は村の中心と村のシンボルでもある湖という身近にある場所だったので、プレゼンテーションにも参加してみました。1つ目は、市役所と教区教会がある中心の広場に向かう道にあるアーチの内側に描かれた壁画です。青と白の2色だけという大胆な配色は、薄暗い通路がまるで別世界のように感じます。タイトルはおらが村の郵便番号である50060、色は村を流れる川、そしてモチーフは川のほかに太陽や木々、星という自然です。アーチストはサマースクールにも参加し、そこで一緒に過ごした子供たちのモチーフもたクさん使われています。

湖の脇に遊歩道にある作品はいずれも女性のもので、「もし月が隠れに来たら」と「足元の地面から突然花が咲いてきたらどう感じる?」と、イマジネーションをそそる名前です。前者は夜になると内臓されている光のボールが点灯し、同時に村で聞こえる音、住人の声が流れる仕組みだそうです。

おらが村の「アーチストのレジデンス」

もうひとつはこの先の村の中心にいく通路脇、枝が空に伸びていくモチーフの扉で、鮮やかな緑で彩られています。その前後に植えられたローズマリー、セージなどのハーブの花壇は、村の庭師とのコラボレーションです。

おらが村の「アーチストのレジデンス」

これらの作品は村の一部として受け継がれていきますが、住人の意見は本当にさまざま。こんなことにお金を使うなら、もっと住民の生活に直結するものに使え!という声が多いのも現実です。芸術の意義や芸術を通した地域プロモーションでは、その取り組みが世界規模で知られている同じトスカーナ州のペッチョリやエミリア・ロマーニャ州のドッツアなどの前例がありますが、おらが村はまだ2年目、7つの実績しかない現在では評価が難しいでしょう。

現在の市長がこのプロジェクトを開始し、今年の春に再選したおかげで彼が進めるあらゆるプロジェクトが継続することになります。同じく昨年から始まった湖とその周辺の再開発も住民の賛否両論。就任期間のこの5年に全てのプロジェクトが完結し、その後も当初の目的通りの結果が得られるかどうか?私も住民の一人として見守っていきたいと思います。


文・写真/中山久美子
日伊通訳・コーディネイター。2001年にフィレンツェ留学、結婚ののち、2005年よりトスカーナ北部の田舎に在住。トスカーナの小さな村、郷土料理やお祭り、料理教室などのプログラムを紹介するサイト「トスカーナ自由自在」を運営。イタリアの美しい村30村を紹介した「イタリアの美しい村を歩く」を東海教育研究所より出版。