「ウンブリアのヴェネツィア」、ラシーリア

前回のメルマガでは、トスカーナ州アルノ渓谷の「渓流の村」を紹介しましたが、清らかな水が流れる美しい村は、イタリア各地に存在します。6月に入り日本もイタリアも暑くなってきたので、記事を読んで写真を見て頂いて少しでも「涼」を感じて頂けるよう、数回に分けて紹介していきたいと思います。

まずはトスカーナのお隣、ウンブリア州から。ウンブリア州はイタリアの中央に位置し、地中海に突き出したイタリア半島では数少ない海に面していない内陸の州で、「イタリアの緑のハート」という別名を持っています。そんなウンブリア州にあって、「ウンブリアのヴェネツィア」と呼ばれる渓流の村がラシーリアです。

ラシーリアはウンブリア州の東、ペルージャ県フォリーニョ市の分離集落で、そこからバスで30分の距離にあります。標高は648m、周りはまさに緑に囲まれており、その存在を知らなければ通り過ぎてしまいそうなほど小さな村です。しかし近年はその美しさから注目され、春~秋の週末にもなるとイタリア人を中心に多くの人が訪問するように。私たちは7月にマルケ州でのバカンスの後に寄ったのですが、駐車場所を探すのに苦労するほどその混み具合にビックリしました。

ラシーリアの見どころは、やはりその代名詞である清流。高みにあるカポヴェ―ナ源泉から集落のあちらこちらに流れています。写真のように、結構な幅で水量も豊富。中心にある大きな貯水場を経て、集落の西に流れるモントーネ川に流れつきます。ラシーリアの記録は近郊の修道院に残っていますが、中世はアドリア海とティレニア海(イタリア半島の左右の海)を結ぶ要地、さらにはローマとアンコーナを結ぶ要地でした。そしてこの豊富な水源を生かし、水車を動力に用いた繊維業や、水が欠かせない染色業が盛んだったそうです。

村の真ん中にある展望テラスの前には、かつての繊維・染色の工房が再現されています。中には入れず、開いているドアから見るだけなのでやや分かりにくいですが、ぜひ覗いてみてください。展望テラスの右横、工房の前にあるのはレストランと雑貨屋さんで、前者にはランチに入りましたが、入り口近くの床が一部ガラス張りになっており、このように下に流れる清流を見ることができます。いっぽう雑貨屋さんには、1400年代の水車が展示されています。雑貨屋さんで購入する予定がなくても、見学をさせてくれるので入ってみましょう。

村は30分あれば1周できますが、「屋外ミュージアム」と呼ばれているように、昔の器具の展示や、かつての写真パネルがあちらこちらに飾られています。私たちは個人だったのと時間の問題で利用しませんでしたが、Rasiglia e le Sue Sorgenti(ラシーリアとその源泉)という現地住民によるアソシエーションよるガイドサービスもあります。観光ガイドでない住民による説明なので、ガイドには載っていない、住民たちで守ってきた歴史や慣習などを知ることができるそうです。

しかし本当に驚いたのは、この水の冷たさと美しさ!こんな水があちこちに流れているので、村全体の気温は少し低いのでは?と思えるほどで、水を触るだけで暑さが和らぎます。しかし冒頭にも書いたように、夏、特に週末は結構な賑わいになるので、訪れるならバスの本数も比較的多い平日がおススメです!


文・写真/中山久美子
日伊通訳・コーディネイター。2001年にフィレンツェ留学、結婚ののち、2005年よりトスカーナ北部の田舎に在住。トスカーナの小さな村、郷土料理やお祭り、料理教室などのプログラムを紹介するサイト「トスカーナ自由自在」を運営。イタリアの美しい村30村を紹介した「イタリアの美しい村を歩く」を東海教育研究所より出版。