美しき渓流の村、
ローロ・チュッフェンナ
アルノ渓谷の見どころ紹介の最後は、美しい珠玉の村ローロ・チュッフェンナを紹介します。フィレンツェからもアレッツォからも1時間ほど、車を走らせると山に囲まれた自然の中に時計のあるピンクの塔が見えてきます。「イタリアの美しい村」にも選ばれており、昔の良き小さな村のたたずまいが残っていながらも、ほど良く市民や訪問者の活気もあって散策が楽しい村。旧市街の中心・ジャコモ・マッテオッティ広場にあるツーリストインフォメーションで地図をもらい、そこに記されている旧市街散策ルートに従って歩いてみましょう。もちろん小さな村なので、気になる路地などを見つけたら寄り道してもOKです。
ツーリスト・インフォメーションを背に右側には、細い渓流・チュッフェンナ川にかかる長い橋があります。そこから川沿いの建物の中にちらっと見えるのは、1100年頃から存在する使用可能なものの中でトスカーナいち古い水車。つまり900年も前のものですが、なんと現在もこの地方の特産物である栗を挽くのに使用されているそうです。
そしてこの橋の向こう側にあるのが、「ローマ時代の橋」。そう呼ばれているものの、現存の橋は中世に再建設されたものとされています。幅も狭くて壁の高さが低いので、私たちが訪れた当時まだ小さかった次男は渡るの怖がってましたが、もちろん渡ってもビクともしませんので安心してお渡りください!
ローマ橋を渡って右へ曲がり、アーチを抜けると可愛らしい広場が。洗濯物もはためいていて思いっきり居住空間なのですが、美しい町は住む人の美意識なのか、玄関や窓周りなども花や雑貨で飾られていたり、ベンチが置いてあっていくらでも写真を撮りたくなってしまいます。地図とにらめっこしながら見た目は建物の玄関に入るような階段を上り、可愛い路地が続く迷路のような空間を抜けていくと小さな広場へ。そこから道の先に見えるピンクの塔の方へは行かず、その道を渡って階段を上るとサンタ・マリア・アッスンタ教会にたどり着きます。
入口は教会の側面で、祭壇側もファサート側も現在は建物がくっついていて見ることができません。というのも、元々はこの辺りを治めていたグイード家専用の礼拝堂で、それが1275年に拡張して城壁の2つの塔とも一体化したそう。教会も町の歴史によって変貌していくのも面白いですね。
またロ―ロ・チュッフェンナから約2キロの集落に、トスカーナ随一のロマネスク様式であるサン・ピエトロ教会があります。教会は彫刻の立派な柱とアーチによって分かれた三身廊。奥行きを深く取り、手前に柱とアーチでしつらえた後陣は、1000年以上前の建立とは信じられないほど美しく、しっかり保存されています。ファサートの扉の横木にはおそらく改修された年=1422、メディチ家のレオ10世の紋章下の横木には1522年の年が刻まれており、この教会が生きてきた歴史が感じられます。全体像を見たら、柱上の彫刻にも注目してみましょう。入って左側の柱は新旧の聖書について、右側の柱は初期キリスト教・エトルリア文化・東洋芸術からイスピレーションを受けたテーマとなっています。そして、右側にあるのが13世紀頃の説教壇。ねじりの入った柱は、後陣外側と同じデザインになっています。
内部をじっくり見学したら、祭壇の左横にあるドアから外に出ましょう。教会の後ろには小さなお庭があり、美しい後陣を後ろからも眺めることができるのです。ここはオリーブが何本かあるだけの原っぱになっているので、私たちのようにしばし寝転んでも良し、ちょうどいた別の若い女性は本を読んで過ごしていました。ローロ・チュッフェンナの村散策、そして美しい教会の後ろ姿を見ながらのまったりタイムは格別ですよ。
文・写真/中山久美子
日伊通訳・コーディネイター。2001年にフィレンツェ留学、結婚ののち、2005年よりトスカーナ北部の田舎に在住。トスカーナの小さな村、郷土料理やお祭り、料理教室などのプログラムを紹介するサイト「トスカーナ自由自在」を運営。イタリアの美しい村30村を紹介した「イタリアの美しい村を歩く」を東海教育研究所より出版。