フィレンツェ人の避暑地、ヴァッロンブローザ
断崖絶壁のバルツェから始まったアルノ渓谷の見どころ紹介ですが、今回はもう1つの自然スポット、フィレンツェから東へ約40キロ、車でちょうど1時間の距離にあるヴァッロンブローザを紹介します。一帯は国立自然保護区になっており、そのうち95%はモミ、ブナ、カエデからなる森。ビジターセンターもあり、イタリア山岳クラブや国の森林監視隊のトレッキングコースが整備されています。
しかしヴァッロンブローザで何よりも有名なのは、同名の修道院でしょう。国の重要文化財にも指定されているこの修道院は、1038年にベネディクト派の修道士たちにより建てられた小さな木製の祈祷所に起源を持ちます。その後20年かけて石造りの教会を建てて枢機卿により祝福も授かりますが、コミュニティの拡大と共に拡張を続け、14世紀には大きな中庭と塔が建設されたり、ペルジーノの祭壇画(現在はウフィッツィ美術館蔵)やルカ・デッラ・ロッビアの彩色テラコッタなどの芸術作品も多く残されました。18世紀には近代化のための改修が行われ、現在に至ります。
教会の正面は主に17世紀に改修されたものですが、左右に翼廊をもつT字型の構造1230年のもの。内壁のしっくいや天井のフレスコ画は18世紀のものなので、中世の面影は感じることはありません。薄暗い内部から浮かび上がる淡い色調のフレスコ画は身廊だけでなく、翼廊から入るサン・ジョヴァンニ・グアルベルト礼拝堂とサン・サクラメント礼拝堂の天井もお見逃しなく。
ここでは現在でも修道士が活動を営んでいるため、菜園やはちみつやプロポリス、石鹸やローションなどの生産も行っています。生産品は修道院内にあるショップでこれらの生産品を買うことができるので、修道院へのお布施代わりにここでお土産を調達してはいかがでしょうか?
しかし、フィレンツェ人や近郊の人がここに来る一番の目的は、暑苦しい都会を抜けて涼しい高地でリラックスするため。私が行ったのはコロナ年の初夏だったというのもあり、おそらく今まで以上に多くの人が訪れていました。私たちのような家族連れから老夫婦、サマーキャンプらしき学生の団体、若い子たちの集まりまで。敷物を敷いて寝転んで読書したり、ピクニックしたり、サッカーやバドミントンで遊んだり、中にはテントを張ったりバーベキューをしている人も!そんな地元民の様子を眺めるのも楽しいです。
体力に自信がある方は、修道院から出ている「Il Circuito delle Cappelle(礼拝堂のハイキングコース)」に挑戦してみてください。ヴァッロンブローザ修道会の創設者であるサン・ジョヴァンニ・グアルベルトの生涯に所縁ある10の箇所を周るものですが、地図なしでも標識をたどっていくだけなので気軽に始められます。全長4.8キロで急な坂道や階段も所々にありますが、何よりも美しい自然を愛でながら歩くのはとても気持ちよく、Paradisino(小天国)と呼ばれるパノラマポイントからは、修道院の全景も眺めることができます。
ハイキングコースを周り終わったら、大きな芝生近くにあるお店でジェラートを。イタリアのジェラートはいつどこで食べても美味しいですが、たくさん歩いた後のジェラートは格別ですよ。
文・写真/中山久美子
日伊通訳・コーディネイター。2001年にフィレンツェ留学、結婚ののち、2005年よりトスカーナ北部の田舎に在住。トスカーナの小さな村、郷土料理やお祭り、料理教室などのプログラムを紹介するサイト「トスカーナ自由自在」を運営。イタリアの美しい村30村を紹介した「イタリアの美しい村を歩く」を東海教育研究所より出版。