ラベンダーの香りに包まれて| トスカーナおらが村便り| Mail Magazine 15 Luglio 2023

それほどガーデニングに力を入れているわけではないですが、憧れのラベンダーを植えたのは2017年。テラススペースから1段上がった土部分に1列5株を植えたのですが、越冬できなかったり植え替えたりで残ったのは3株。しかし3株になってよかったと思えるほど大きく育っています。2020年にスワッグから始め、2021年から作り出したリースも今年3年目。この時期の私の1つの楽しみになっています。

そして今年は、ラベンダーの蒸留と精油作りも体験することができました。縁があり、おらが村の隠れたパーマカルチャー農園のアンナと知り合い、彼女の友人が体験する時に私も便乗させてもらったのです。

※パーマカルチャー:パーマネント(永続性)、農業(アグリカルチャー)、文化(カルチャー)を組み合わせた造語で、永続可能な循環型の農業をもとに人と自然が搾取し合うことなく、ともに豊かになるような関係性を築いていくための社会システム。

17時でもさんさんと降り注ぐ日差しの中、3人でラベンダーを次々とカットしていきます。30分ほどでバケツいっぱいになったら、涼しい作業小屋へ移動。蒸留は茎から丸ごと使っても花だけを使っても良いのですが、後者だと花だけに分ける作業にまた時間がかかるので、今回は前者の丸ごと使うことにしました。銅製の蒸留器の半分くらいまでラベンダーを詰めていき、ラベンダーが浸るまで水を入れます。蒸気が流れる管やそれを冷やすセッティングを行い、蒸留器に点火! アンナお手製の冷えたローズティーでクールダウンしたと思ったら、また火を使う作業になり額に汗がにじみます。

ラベンダーが浸された水が沸騰し、その蒸気を冷やして液体となったものがビーカーに落ちてくるのですが、これがラベンダーの芳香蒸留水。その上に薄くはった黄色っぽい膜が精油です。数年前にメディカルアロマ講座を受けて精油は身近な存在になっていましたが、今回初めて精油の作り方を知りました。思っていたより簡単な製法ではありましたが、アンナは全部1人でこじんまりとやっているので、蒸留水から精油を取り出すのは注射器というかなりアナログな方法です。収穫からここまでで約2時間、できた精油はほんの2mlほどなのですから、精油がとても貴重なもので、大規模な工場だとしてもそれなりの価格なってしまうのも納得。オリーブオイルなど他の農作物と同じで、その年の気候や土壌、個体差によって香りや色、精油が取れる量も毎年少しづつ違います。

こうしてしばらくラベンダー漬けになっていると、まだまだ咲いている庭のラベンダーで何かしたくなり・・・適した袋も見つかったので、香り袋を作ってみました。朝の涼しいうちにラベンダーを切り、家の中で花だけをそぎ落とし、袋に詰めていくだけというシンプルなものですが、タオルを置いている棚の中や下着が入っている引き出しに入れておくと、ほんのりラベンダの香りが移ります。

来年は何か違うものに挑戦できるかな?と今から妄想してしまうほど、ラベンダー月間は私の田舎暮らしに欠かせない嬉しい時間となりました。


文・写真/中山久美子
日伊通訳・コーディネイター。2001年にフィレンツェ留学、結婚ののち、2005年よりトスカーナ北部の田舎に在住。トスカーナの小さな村、郷土料理やお祭り、料理教室などのプログラムを紹介するサイト「トスカーナ自由自在」を運営。