アリオーネ

トスカーナおらが村便り| Mail Magazine 29 Agosto 2020

「Aglione アリオーネ」、というイタリアの野菜をご存じですか?イタリア語の「Aglio にんにく」に拡大辞の -one がついているので、イタリア語をご存じの方はピンとくると思いますが、まさに名前そのままの「大きなにんにく」です。重さは200g~最大800g、直径も最大10㎝と、笑っちゃうくらいの大きさなのですが、その違いは大きさだけではありません。にんにくと比べ、臭いも味もとてもデリケートなので、たくさん食べても口臭が気になることもなく、胃にもたれることもないそう。私もアリオーネの存在を知ったのは近年なのですが、先日、偶然知ったアリオーネ農家さんへ直接買いに行ってきました。アリオーネの産地はトスカーナ東南部のキアーナ渓谷で、シエナ県とアレッツォ県にまたがる20の市を指します。生産者さんはこのエリアと、隣接するウンブリア州の一部に十数軒あるだけ。1990年代にアリオーネ生産が復活した今でも、市場に出回ることはない希少なものなのです。

アリオーネ

今回訪れた農家さんは、モンテプルチャーノ近郊。アリオーネは秋に植えて収穫は6月~7月なので、まさに収穫したてのほやほやです。私は標準サイズの250gのものを購入しましたが、せっかくなので一番大きなサイズを見せてもらい、手に乗せてもらうと・・・写真のように大人の手のひらサイズで、ずっしりと重く、とてもにんにくだとは思えません!価格は重さで変わりますが、この農家では標準サイズは1キロ18ユーロでした。

フレッシュトマト

購入したアリオーネは、やはり定番の「Pici all’aglione ピチのアリオーネソース」に。多くの方が「アリオーネソース=にんにくをたくさん使っているトマトソース」と解釈し、実際アリオーネを使っていないレストランもたくさんありますが、本当はアリオーネそのものを使っているものです。私も初めて作るので「真のアリオーネソース」で検索してみると、微妙に異なるレシピがいろいろ出てきました。最初からピューレを使ったり、アリオーネもみじん切りやスライスという違いはありましたが、共通するのは「アリオーネは決して色づかないように、じっくりと火を通すこと」。私はフレッシュトマトを使い、最後にピューレ状にするレシピでやってみました。

手打ちすることは少ないパスタ

そしてピチは、トスカーナ州南部の郷土パスタ。材料は小麦粉・塩・水だけ、作り方自体は簡単なのですが、1本1本作るため時間がかかります。そのため家はおろか、レストランでも手打ちすることは少ないパスタなのですが、今回はせっかくアリオーネもあるので、私も初めて手打ちに挑戦・・・確かに時間はかかりますし、均等な太さに仕上げる課題は残ったものの、思ったよりは簡単にできました。やはり、手打ちパスタは楽しい、そして美味しい!です。

ピチのアリオーネソース

ピチを茹でたら、ピューレ状にしたアリオーネソースに絡めるだけ。アリオーネの味をしっかり味わうため、粉チーズはかけません。これでもか!とアリオーネの味がしますが、辛味も少なくて味わいもマイルド。農家さんが「一度アリオーネを食べたら、もう普通のにんにくには戻れないって人が多いんですよ」って言うのも納得です。

「ピチのアリオーネソース」のように、イタリアには限られたエリアでしかできない食材、そしてそこに根差した郷土料理がたくさんあります。そんな小さな宝石を持ち帰り、その地の伝統を分けていただく。たった1皿のパスタですが、そんな喜びに満ち溢れたランチになりました。


文・写真/中山久美子
日伊通訳・コーディネイター。2001年にフィレンツェ留学、結婚ののち、2005年よりトスカーナ北部の田舎に在住。トスカーナの小さな村、郷土料理やお祭り、料理教室などのプログラムを紹介するサイト「トスカーナ自由自在」を運営。https://toscanajiyujizai.com/