トスカーナおらが村便り| Mail Magazine 29 luglio 2020
数年前から友人のSNS投稿を見ていて、ずっとやりたかった事があります。それがこの「聖ヨハネの水」。6月24日の聖ヨハネ(フィレンツェの守護聖人)の日の前の晩に仕込むものなので、今までは日本に帰省していてできなかったですが、今年はそれが皮肉にも実現できることになったのです。かなり昔からのイタリアの慣習である、この聖ヨハネの水とは・・・?
6月21日の夏至で太陽のエネルギーは最大になり、それを享受した野の花を集めて作られたハーブウォーターのこと。作り方はとても簡単で、ボウルに貯めた水に入れ、そこに集めた野の花やハーブを入れて外で一晩寝かせるだけです。そして翌朝、花に宿った太陽と夜の月のエネルギーがうつった水で、清めるように顔、腕を洗います。たった一晩なのに、すごい良い香りになり、それを嗅ぐだけでうっとり。そして顔を洗い、腕をくぐらせ、髪もとかし、聖ヨハネの水を存分に楽しみました。
私が入れたのは、裏庭・裏山に生えている野の花に、庭にあったバラ、ラベンダー、ジャスミンを追加。他にも植えているミントとセージ、そして自生のフェンネルを入れてみました。こうして水から出してみると、全部でなんと20種。あとになって、近所の公園に生えているマロウ、家のバジルやローズマリーも入れられたことに気づいたので、来年はもっと豊かな水ができそうです。作り方自体は簡単ですが、都会の方は野の花を集めるのが少し大変かも。とはいえ、毒性のあるもの以外は何でも良いですし、数種類でも良いので、皆さんもぜひ来年やってみて下さい。
しかし、伝統では必ず入るべき花があります。それがこちら、西洋オトギリソウ、イタリア語ではIperico(イペーリコ)と言います。「聖ヨハネのハーブ」と呼ばれているのは、この花が6月24日の聖ヨハネの日に満開を迎えるから。今まで全く気付かなかったのですが、裏庭に行くとあちらこちらに生えていました。この花は効能を持つ成分に富んでいるため、ドイツでは抗うつ剤などの薬品にも使用されているとか。そしてもう1つ、一般に普及している効能が、肌の再生です。フラボノイドやカロチンの成分により、やけどやケガの痛みを抑えて肌の再生機能を高め、乾燥やしわなど、老化した肌も活性させるとか・・・けがやあざだらけの我が家の男児2人、そしてアラフィフの私にぴったりの効能ではないですか!
という訳で、私も西洋オトギリソウのオイルを作ってみました。写真のように花を集めて瓶に入れ、花がかぶるくらいまで植物性のオイルを注ぎます。あとは蓋をしっかり閉め、室内の日向に置いておき、1日に1回さかさまにして数回振るだけ。これを21日~1か月続け、オイルを濾したらできあがり。最初はオイルの色をしていますが、数日後から赤くなるのは、カロチンの成分からです。
田舎暮らしを始めて15年になりますが、まだまだ学ぶことがたくさんありますね。
文・写真/中山久美子
日伊通訳・コーディネイター。2001年にフィレンツェ留学、結婚ののち、2005年よりトスカーナ北部の田舎に在住。トスカーナの小さな村、郷土料理やお祭り、料理教室などのプログラムを紹介するサイト「トスカーナ自由自在」を運営。https://toscanajiyujizai.com/